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演劇を記録する―その方法論に関する比較研究 |
●代表者名
竹本幹夫
●研究組織
所属 |
資格 |
氏名 |
演劇博物館 |
館長 |
竹本幹夫 |
演劇博物館
演劇博物館
演劇博物館
演劇博物館
演劇博物館
演劇博物館
早稲田大学文学研究科
演劇博物館21世紀COE |
助手
助手
助手
助手
助手
助手
博士課程
客員講師 |
碓井みちこ
金子健
佐藤和道
田村容子
萩原 健
中野正昭
田草川みずき
李 墨 |
●2006年度の研究内容
時間芸術の中でも、演劇は、一回性と共時性に支えられた表現形式であるため、上演そのものを記録・保存することは不可能に近い。しかしその一方で、演劇史とはそのまま記録・保存された演劇の蓄積とも考えられる。演劇人たちは上演の記録にどのように取り組んできたのか、あるいは取り組んでこなかったのか。また、それらの取り組みには、文化や地域等によってどのような差異が認められるのか。そして、演劇・映像を記録するということはどのような問題を孕んでいるのか。
本研究は、演劇博物館助手、元助手である研究参加者の専門の多様性を生かした研究を行うことを目的とする。さらに、本年度より映像分野からの視点を研究に取り入れ、映像に記録された「演技」に注目することによって、より多角的な研究を目指す。
●2006年度の具体的な研究計画
本年度は、前年度に引き続き、各研究分担者が研究分野に応じた専門的な基礎資料調査及び研究を行うとともに、当プロジェクトのテーマについての総合的な比較研究を行うこととする。具体的には、隔月のペースで研究分担者による研究会を行い、各研究分野・テーマをとりまく演劇および映像資料についての情報交換を手始めとして、演劇・映像資料とは何か、また、その周辺にどのような問題が存在するのかなど、「演劇を記録する」ということに関する具体的かつ総合的な比較研究へと結び付けることを目的とする。以下のような研究会テーマを今後の課題として検討している。
・ 諸演劇・映像資料コレクションの性質とその有用性について
・ 演劇・映像資料に基づく実証的研究について
・ 文化・地域における演劇・映像資料の取り扱いと学術的価値の差異について
【碓井みちこ】
「映画における「演技」とその観客に関する研究」
近年の映画研究では、記録された映像・音がどのように読み取られるかということに対し、あらためて関心が寄せられている。そこで本研究では、特に、フィルムに記録された俳優の「演技」、ならびにそのような演技を見る観客の経験のあり方に注目する。また、本研究のこのようなテーマは、キャメラの前で行われる映画の演技が、観客の前で行われる演劇の演技といかなる形で異なるかについて検討するプロセスを必然的に含むことになるだろう。
具体的には、ヒッチコック映画とそれに大きな影響を受けたとされるフランス・ヌーヴェル・ヴァーグ作品を取り上げ、俳優の「演技」の観点からそれらを比較検討する。さらには、同時代の観客の反応を記したノン・フィルムマテリアルを収集することによって、それら諸作品における俳優の演技がどのように受容されていたかを分析する。とりわけ本年度の作業としては、映画の演技をテーマとする文献の調査、いくつかの作品に対する批評記事と観客の反応の収集、そして、演技を分析するための理論の検討とその理論を精査するための論文の執筆などを予定している。
【金子健】
演劇博物館貴重書資料のうち、江戸歌舞伎台本の複写を行う。中でも、主として文化文政期(19世紀前半)に上演された所作事(舞踊)の台本を複写対象とする。これらは独立した作品である場合だけでなく、一日がかりの長い作品の中に組み込まれていた場合も多い。よって作品全体を読解する作業を経て、はじめて各所作事の背負う世界や位置づけが理解される。所作事を通して江戸歌舞伎の戯曲構成を再検討し、かつその中で舞踊や地(伴奏音楽)の果たす役割について考察することを目的とする。
【佐藤和道】
日本演劇の始原に関する研究の立場から、能楽と幸若についてその諸記録に関する資料の収集を行いたい。日本固有の演劇の登場は、14世紀の観阿弥・世阿弥による能楽の大成、及び15世紀の幸若大夫による幸若舞の大成を端緒とする。この時期には、平曲、説教、放下など様々な芸能が同時発生的に勃興したが、中でも能と幸若とは、舞台芸能として観客に見せることが念頭に置かれていた点、固定的なテキストを用いていた点で、それ以前の芸能とは一線を画しており、日本における最初の演劇であると認められる。こうした演劇の発生は、古代ギリシアや、シェイクスピアを生んだイギリスのエリザベス朝における例からも分かるように、その国の文化が成熟段階に達したことを示すものと考えられ、日本においても系統を異にする劇形態の芸能が時期を同じくして発生したことは注目に値する。そこで、能と幸若舞という二種類の芸能(演劇)に着目し、14世紀から16世紀における日本演劇成立の様相を検証し、さらにその実現を可能とした文化的背景を明らかすることを目的としたい。
【田村容子】
清末から中華民国初期にかけての、中国演劇上演状況を調査する。本年度は、上海で発行された絵入り新聞『点石斎画報』(1884年創刊)より、図像として描かれた演劇関連記事を抽出する。さらに、『申報』など同時期の新聞紙上に掲載された劇評と比較し、画像中の劇場・事件・俳優などの同定作業を行う。演劇記事を文字テキスト・図像の両面から分析する作業を通し、二十世紀初頭の上海における演劇状況を明らかにすると同時に、それがいかなる視点から記録されたのかについても考察を試みたい。
【中野正昭】
昨年度行った東宝株式会社とその関連劇団に於ける大衆文化の問題に続き、本年度は文芸協会、芸術座を中心に所謂「新劇」と呼ばれる劇団を対象として同問題を調査、比較検討する。研究方法としては、従来一般的だった作品研究を避け、資料も戯曲(テキスト)以外のプログラム、会計簿などからのアプローチを試みる。
【萩原健】
〈両大戦間期の日本とドイツにおけるアジプロ演劇〉
両大戦間期の当時、日独両国の間で相互に交流・発展を見たアジプロ演劇の全体像を明らかにすることを試みる。アジプロ演劇はその受け手として、いわゆるインテリではなく労働者を念頭にし、戯曲の文学性よりも発話の方法や身体表現に重点を置いていたために、戯曲研究を中心とする従来の演劇研究ではほとんど顧みられていない。本研究はこのアジプロ演劇の独自性を追究し、また日独それぞれのアジプロ演劇における共通点を探るものである。
具体的には、前年度にひきつづき、俳優・演出家の千田是也が滞独中(1927-31)に参加したドイツ・ベルリンのアジプロ劇団〈劇団1931〉(1931-33)の活動を追い、今年度はそれと並行して、その周辺の劇団および演劇人の活動を点検する。関連資料の収集を日独両国において行うとともに、演劇博物館・千田文庫に収められている演出用台本や舞台写真、千田ほか当事者の手記などに加え、ベルリン・学術アカデミーをはじめ、ドイツの各資料館が所蔵する同様の資料の調査・分析を進める。
【田草川みずき】
分担者は昨年度、本プロジェクトの成果として、新出資料である表具屋節段物集「道行きぬ表具」の解題および翻刻を発表した。「道行きぬ表具」は、1998年に演劇博物館に寄贈された千葉胤男(辻町)文庫中に確認されたもので、正本が伝わらず、これまで幻の古浄瑠璃であった表具節の、第一次資料として注目される。今年度は、この「道行きぬ表具」中にみられる段物の個々を調査し、古浄瑠璃としての表具節の系統を明らかにしたい。
【李墨】
本年度、明治期から大正期に至るまで上演される歌舞伎「一の谷」、また、それに関連して西沢一鳳が天保年間に三代目歌右衛門のために書き換えた歌舞伎「源平魁躑躅」(俗称「扇屋熊谷」)の上演変遷を調査する。本作品は江戸後期に歌舞伎を代表する名優三代目歌右衛門と七代目団十郎がしばしば上演することによって芝翫型と団十郎型として完成され、明治期に至ると、九代目団十郎の新工夫によって新たな段階に入り、今日、団十郎型のみ伝承されている。本作品を通して明治、大正期と変動期に古典歌舞伎の盛衰を考査する。
2006年度活動報告 |
本年度は、前年度に引き続き、各研究分担者が研究分野に応じた専門的な基礎資料調査及び研究を行うとともに、意見交換を通して当プロジェクトのテーマについての総合的な比較研究を行った。研究分担者による個別の研究実施状況は次の通りである。
碓井みちこは、「映画における『演技』とその観客に関する研究」として、フィルムに記録された俳優の「演技」、ならびにそのような演技を見る観客の経験のあり方についての研究を行った。
金子健は、演劇博物館貴重書資料のうち、江戸歌舞伎台本(主として文化文政期に上演された所作事の台本)の複写を行い、江戸歌舞伎の戯曲構成の再検討、特に三代目坂東三津五郎所演の舞踊作品についての考察を試みた。
佐藤和道は、能楽と幸若についてその諸記録に関する資料の収集を行い、14世紀から16世紀における日本演劇成立の様相を検証し、さらにその実現を可能とした文化的背景についての研究を行った。
田村容子は、清末から中華民国初期にかけての、中国演劇上演状況の調査として、上海で発行された絵入り新聞『点石斎画報』に図像として掲載された演劇記事の抽出を行った。
中野正昭は、前年度の研究テーマである東宝株式会社とその関連劇団に於ける大衆文化の問題に続き、本年度は文芸協会、芸術座を中心に所謂「新劇」と呼ばれる劇団を対象として、引き続き同問題の調査を行った。
萩原健は1920・30年代のドイツ・アジプロ演劇関連資料の調査・収集を行なった。前期に基礎調査をし、8月にはSIBMAS(国際演劇図書館博物館連盟)2006年会議(オーストリア・ウィーン)に出席したさい、関連資料を所蔵している可能性のある演劇博物館・資料館とコンタクトを結び、翌07年2月に渡独、デュッセルドルフ演劇博物館、ケルン大学付属演劇資料館、ミュンヒェン・ドイツ演劇博物館、ベルリン・芸術アカデミー資料館の各資料館・博物館において調査をし、これを完了した。
田草川みずきは、前年度の成果である表具屋節段物集「道行きぬ表具」の解題および翻刻の研究を継続し、その中にみられる段物の個々を調査し、古浄瑠璃としての表具節の系統を明らかにすることを試みた。
李墨は、明治期から大正期に至るまで上演される歌舞伎「一の谷」、また、それに関連して西沢一鳳が天保年間に三代目歌右衛門のために書き換えた歌舞伎「源平魁躑躅」(俗称「扇屋熊谷」)の上演変遷の調査を行い、明治、大正期と変動期における古典歌舞伎の盛衰を考察した。
○研究成果発表
金子健「「寄三津再十二支」台本紹介(上)」『演劇研究』第30号、2007年、33頁~44頁、総12頁
佐藤和道「能〈調伏曽我〉考」『演劇研究』第30号、2007年、1頁~11頁、総11頁 |
プロジェクト研究成果概要
文芸協会と中山太陽堂 タイアップする明治・大正の新文化 |
2004年度から始動した本プロジェクトグループは、演劇博物館館長竹本幹夫を筆頭に、2004年度~2007年度にかけて演劇博物館助手をつとめた総計11名(坂本麻衣・間瀬幸江・鈴木美穂・田草川みずき・李墨・中野正昭・萩原健・碓井みちこ・金子健・佐藤和道・田村容子)のメンバーによって構成されている。2007年度の研究組織は下記の通りである。
演劇博物館 |
館長 |
竹本幹夫 |
演劇博物館 演劇博物館 演劇博物館 演劇博物館 演劇博物館 演劇博物館 日本学術振興会 演劇博物館グローバルCOE
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助手 助手 助手 助手 助手 助手 特別研究員PD 研究員
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碓井みちこ 金子健 佐藤和道 田村容子 萩原 健 中野正昭 田草川みずき 李 墨
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本プロジェクトは、各研究分担者が研究分野に応じた専門的な基礎資料調査及び研究を行うとともに、研究会を開催し、意見交換を通して世界の演劇についての総合的な比較研究を行った。研究の成果は、各研究分担者が毎年個別に論文にまとめる形で公開している。また、定期的にプロジェクトの活動報告を発表した。
【2004年度成果】
- 坂本麻衣「自由劇場「夜の宿」の舞台装置と“模倣”論争」『演劇研究』第27号(2003)、2004年、21~36頁
- 間瀬幸江「「演劇を記録する-その方法論に関する比較研究」プロジェクト紹介」『早稲田大学坪内博士記念 演劇博物館』93号、2005年、34~36頁
【2005年度成果】
- 萩原健「覚醒のための娯楽~〈劇団1931〉旗揚げ公演『鼠落とし』の演出(1931)について―両大戦間期の日独演劇(1)―」『演劇研究』第29号(2005)、2006年、17頁~36頁
- 田草川みずき「表具節段物集「道行きぬ表具」解題・翻刻」『演劇研究』第29号(2005)、2006年、167~185頁
- 鈴木美穂「キャスティングにおける「人種」の問題-現代イギリスの場合」『演劇研究』第29号(2005)、2006年、69~79頁
- 報告「「演劇を記録する―その方法論に関する比較研究」プロジェクト成果報告」『演劇研究』第29号(2005)、2006年、303頁~304頁
【2006年度成果】
- 佐藤和道「能〈調伏曽我〉考」『演劇研究』第30号(2006)、2007年、1頁~11頁
- 金子健「「寄三津再十二支」台本紹介(上)」『演劇研究』第30号(2006)、2007年、33頁~44頁
【2007年度成果】
- 萩原健「出来事としての舞台~アジプロ隊〈メザマシ隊〉の活動について―両大戦間期の日独演劇(2)―」『演劇研究』第31号(2007)、2008年、頁未定
- 金子健「「寄三津再十二支」台本紹介(下)」『演劇研究』第31号(2007)、2008年、頁未定
- 中野正昭「ブレヒト作・東京演劇集団自由脚色『乞食芝居(三文オペラ)』三幕三場 解題・翻刻(1)」『演劇研究』第31号(2007)、2008年、頁未定
- 中野正昭「文芸協会と中山太陽堂 タイアップする明治・大正の新文化」『学術フロンティア事業「日亜・日欧比較演劇総合研究プロジェクト」成果報告論集』、2008年(刊行予定)、http://www.waseda.jp/prj-enpaku/jp/index.html
- LI, Mo(李墨): Kabuki scene as depicted in theater reference materials, in: Traditions et Transformations dans le Théâtre en France et au Japon du XVe au XXe Siècle. 2008
論文一覧
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